Aki's Diary

日々の生活で思ったことなど

私の基本書の読み方(2)

3.基本書を読む際の留意点

(0)緒論

 前回の記事の続きです。
 私の基本書の読み方については,前の記事に記したところで既に尽きています。ただ,前の記事だけ読まれると,ややもすれば『基本書を用いた学習が何よりも重要である』といった誤った印象を与えるおそれもあると考えたため,前回の記事に引き続いて,基本書を読む際の留意点について記したいと思います。


(1)目的の明確化

 まず,基本書を用いて学習する目的を明確にします。受験生にとっては,司法試験合格が長期的かつ絶対的な目標であり,基本書はその達成ツールに過ぎません*1。司法試験合格という長期的な目標達成のために,中期的・短期的な学習目標が設定され,それらの達成のためにインプット・アウトプットに取り組むことになります。

 *1 なかには,基本書を読むこと自体が目的となってしまっている方も見受けられます(特に学習期間が長期に及んでいる方に多いように思います)。だからといってそれを批判/攻撃する必要はないように思いますが,受験生としては他山の石とすべきでしょう。

 たとえば,学習の初期段階にある場合を考えます。
 司法試験に合格するには,試験問題で合格点を取る必要があります(長期的目標)。試験問題で合格点を取るためには,試験問題に対応できる内容理解と技術を身に付ける必要があり,問題に対応できる内容理解と技術を身に付けるには,アウトプットを通じて内容理解と技術を高める必要があります(中期的目標)。そして,アウトプットが効果を挙げるためには,ある程度は知識・理解を予め身に付けている必要があります(短期的目標)。
 そうすると,学習の初期段階にある者としては,アウトプットに取り組む前提としての知識・理解を習得するという短期的目標の達成のために,各ツールを用いてインプットに取り組むべきことになり,基本書はそのツールの1つと位置付けられます。

 よく言われることですが,ゴールから逆算する思考方法は,目標達成にとって一番手っ取り早い方法の1つです。逆に,無目的に基本書を読み進めるという作業は,(たとえ前の記事で紹介した4つ視座を意識して読み進めたとしても)司法試験合格との関係では遠いところにあるものと自覚すべきでしょう。


(2)完璧主義の克服

 次に,基本書を用いて学習する際,完璧な理解を習得すること自体を目的とすべきではありません。その理由は2つあります。

 まず第1に,上記(1)で既にみたとおり,受験生にとっては飽くまで司法試験合格が目的であり,完璧な理解を習得することは目的ではないからです。
 完璧な理解を習得することは,飽くまで司法試験合格の手段的地位に止められるべきであって,言い方を変えれば,司法試験と関係ない事柄について深い理解を習得したとしても,少なくともそれは試験勉強としては無益(というか時間的コストを浪費しているという意味ではむしろ有害)なものといえます。上記(1)とも関わりますが,目的を明確にすることなく,完璧な理解の習得を目指して基本書を読み進めるならば,司法試験合格との関係で勉強のベクトルを誤るおそれがあります(それが学習期間を長期化させる要因にもなり得ます)。

 そして第2に,これも前の記事の2(2)で既にみたとおり,特に学習の初期段階では完璧な理解を習得することは困難な場合が多いからです。
 より深い理解の習得は,アウトプットの復習等の機会に委ねるのが相当と考えます。


(3)アウトプットの重視─インプット偏重の危険

 さらに,基本書によるインプットに偏重した勉強法は原則的に採用すべきでなく,十分にアウトプットを行う機会を持つべきです。その理由も主に2つあります。

 第1は,上記(1)で既にみたとおり,試験問題に対応できる内容理解と技術を身に付けるには,アウトプットを通じてそれらを高める必要があるからです。
 試験問題に対応できる形で基本的理解を習得するには,やはり試験問題等に取り組んで知識・理解をアウトプットする機会を持つことが非常に有効です。基本書によるインプットのみでは,試験問題に対応できるだけの内容理解と技術を身に付けるのは極めて困難といえます*2。

 *2 ごく少数ながら,アウトプットを十分に経ることなく,基本書等によるインプットを行っただけで,基本的理解を応用可能な形で習得できてしまう人達が存在することも事実です。いわゆる『天才』と呼ばれる部類の人達がこれに当たります。
 ここで注意すべきは,天才はごく少数しか存在せず,単純な確率論としては自分自身が天才である可能性は極めて低いということです(私は勿論,私の友人にも天才はいませんでした。ちなみに,研修所ではそれとおぼしき人が何人かいました)。
 そして,基本書を用いた学習で最も危険なのは,自分自身を天才だと決めこんで,基本書等によるインプット偏重型の勉強を頑なに続けてしまうということです。ただでさえ司法試験の合格率が2割程度に止まっているのに,それに加えて,ごく一握りの人達にしか適合しない方法論を敢えて採用するということは,合格へ至る可能性を自らの手で限りなく狭めているといえます(にわかに信じ難いですが,私の周りには,大なり小なりこのきらいがあり負の連鎖に陥ってしまった人達が何人もいました)。現行の司法試験は天才でなくとも十分合格できますので,天才だけが実践可能な方法論を敢えて採用するメリットは少ないように思います。

 第2は,これも前の記事の2(2)で既にみたところと重なりますが,アウトプットは内容理解を深める契機にもなり得るからです。
 インプットとアウトプットを繰り返すことによって,知識の質・精度は飛躍的に高まります。インプットとアウトプットの学習もまた車の両輪であって,双方ともに欠くべからざるものといえます。


(4)その他

 その他の留意点として,① 抽象論と具体例,② 論理構築に際しての必要性と相当性(実質論と形式論),③ 理論的体系と法律の構造(基本書の目次と法律の目次)との関係性,④ 実体法と手続法との連関,といったものがあります。これらの点も重要な視点を提供するものではありますが,純粋な方法論を超えて内容理解に関わる面もあるため,ここでの説明は割愛します。


(5)小括

 以上,基本書学習の留意点について記してきました。色々述べてきましたが,結局のところ根底にあるのは,ある種の目的論的思考であって,『基本書は目的達成のツールに過ぎない』ということです。私は,少なくとも司法試験合格との関係では,基本書を用いること自体に固有の意味はなく,各自が自分に適したツールで合目的的に勉強に取り組むことが出来ればそれで良いのではないかと考えています。


4.おわりに

 2回にわたり基本書の読み方についてみてきました(後半は受験勉強の取り組み方のような話になってしまいましたが)。自分が日頃から考え,そして実践していたことであっても,いざ文章化してみると,表現方法や論理構成に思いのほか苦心したり,あるいは自分自身にとって新たな発見があったりしました。言語化の作業それ自体が自身の思考整理に資するということは,あながち嘘ではなさそうです(論文式問題のアウトプットについても同じことがいえます)。
 最後になりましたが,今回の2つの記事が,司法試験等に向けて勉強を進められる方々に対して,何かインスピレーションを与えることがあれば幸甚です。

私の基本書の読み方

1.はじめに

 お久し振りです。状況が落ち着いてきたので,久しぶりに記事を書いています。
 さて,法律の勉強では,インプット用の教材として,いわゆる基本書を用いることも多いです*1。もっとも,基本書は必ずしも学習者に配慮されて編まれている訳ではなく,特に初学者の方にとっては教材として使いづらい面もあります。
 そこで,私自身の思考整理も兼ねて(実はこれが主目的だったりします),私の基本書の読み方を紹介してみたいと思います。司法試験等に向けて法律を学習される方々にとって,参考になるところがあれば幸いです。また,何かご質問等ありましたら,コメントいただければ嬉しいです。

 *1 なお,インプットのツールとして,いわゆる予備校の講座が利用されることも多いです。私は,予備校は殆ど利用することなく司法試験(次いで二回試験)をパスしましたが,これとは逆に.私と仲の良い友人は,基本書を殆ど利用することなく司法試験(ついでに二回試験)に通りました。そうすると,少なくとも司法試験合格との関係では,『どのツールを用いるか』という観点よりも,むしろ『ツールをどのように用いるか』という観点こそが重要だとも言えそうです。もとより今回の記事も,このような認識の下に記すものであって,ひと昔前によく言われたような,盲目的にいわゆる基本書中心主義や予備校批判に走ることを推奨するものではありません(もっとも,そのような風潮は,予備試験の台頭によって淘汰された感があります)。


2.私の基本書の読み方

(0)総論─4つの視座

 私が基本書を読むときは,(1)ざっくりと全体像を掴む【Outline】,(2)学習対象となる個々の用語を抽出し,その意味を確認する【Object】,(3)制度趣旨や結論に至る論理に着目する【Logic】,(4)個々の制度がどのように体系的に組み立てられているのかを改めて確認し,全体の構造を把握する【Structure】,という4つの視座を設定しています*2。

 *2 以上4つの視座のうち,(1)アウトライン及び(4)ストラクチャーがいわゆるマクロの視座,(2)オブジェクト及び(3)ロジックがミクロの視座といえます。


(1)アウトライン

 勉強する法律の全体像【Outline】がどうなっているのか*3,そして,勉強しようとする内容が全体の中でどのように位置付けられているのか,ということをざっくりと確認します(加えて,これから勉強しようとする内容の全体像をざっくり確認できるとなお良いですが,内容理解にも関わるため困難な場合も多いです)。

 たとえば,これから民法の代理制度について勉強するとします。するとまずは,民法は全部で1044条まであり,総則,物権,債権,親族,相続,という5つの編から成っていること,その中で代理制度は総則の一分野と位置付けられていること,をざっくりと確認します(加えて,代理制度のアウトライン,すなわち代理は大別して有権代理と無権代理とがあり,前者は狭義の有権代理と代理権の濫用,後者は狭義の無権代理表見代理から成っている,といことも確認できるとなお良いですが,内容理解にも関わるため学習の初期段階では困難な場合も多いです)。

 このとき役に立つのが,基本書や各法律の目次です。私は,折に触れて目次を参照していました。
 また,特に学習の初期段階では,アウトラインの確認は形式的なもので足り,各編や各章の実質的内容については,後にみる(2)及び(3)の取り組みに委ねます。アウトラインの確認は『ざっくりと』行うことが肝要です。

 *3 なお,理論的体系(基本書の目次)と法律の構造(法律の目次)とは必ずしも一致しません。民法は概ね一致しますが,刑法や訴訟法など一致しないものもあります。基本書の多くは理論的体系に沿って書かれているため,アウトラインの確認に際しては,原則的には理論的体系を基礎に据えれば良いと思いますが,法律の構造も併せて確認しておくと,個々の条文の理論的位置付けの理解や条文の検索能力を高めることにも繋がり,有益です。


(2)オブジェクト

 基本書を読み進めてゆくに際して,出てくる事項を学習対象【Object】として抽出し,その意味内容を確認します。

 たとえば,基本書で代理の箇所を読み進めていると,代理,任意代理,法定代理,能働代理,受働代理,顕名,といった耳慣れない用語が出てくるので,これらを学習対象として抽出します(ラインマーカー等で線を引きます)。次いで,それぞれの用語の意味内容を確認します(基本書を読みます。各用語の意義,定義,要件,効果などを確認します)。

 このとき,ある事項を学習対象として抽出するか否かで頭を悩ませる必要はありませんが(学習の初期段階では重要性を判断できないため),項目・タイトルとなっているものや繰り返し出てくるもので意味が分からない事項があれば,学習対象として抽出すべきだと思います*4。
 また,学習対象として抽出した事項の意味内容を確認することは大切ですが,その意味するところを完全に理解するには他の分野の知識が必要となる場合も多く,特に学習の初期段階では完璧な理解を目指すことは現実的ではありません。純粋なインプットの段階では,ある程度の形式的な理解でも良しとすべきあり,より深い理解はアウトプットの復習の機会に委ねるべきと考えます。
 加えて,各事項の意味内容を無理に『記憶』するのも得策ではありません。たしかに,記憶の作業は必要であり,特に司法試験の論文式試験に対応するには,最低限『正確に記憶/暗記』しなければならない定義,要件,効果は数多くあります。しかしながら,特に学習の初期段階では記憶すべき内容を正しくセレクトするのは困難であり,また,学習対象として抽出した事項を全て正確に記憶することも現実的ではありません。記憶定着化の作業も,やはりアウトプットの復習の機会に委ねるのが相当だと思います。
 この『インプット → 忘れる → アウトプット → 知識/理解不足が露呈 → 記憶/理解を深めるため再度インプット → ‥‥』というサイクルを繰り返すことで,知識の質(ひいては司法試験への対応力)が飛躍的に高まります。

 *4 たとえば私であれば,代理を勉強するに際しては,最低限以下の事項はセレクトします。ご参考までに。代理,能働代理,受働代理,任意代理,法定代理,顕名,復代理,代理権の濫用,無権代理,自己契約・双方代理・利益相反行為の原則的禁止,無権代理人の責任,無権代理と相続,表見代理,代理権授与の─,権限外行為の─,代理権消滅後の─,─の重畳適用,表見法理,使者,などなど。


(3)ロジック

 学習対象となる事項の抽出・確認を終えたら,又はそれと並行して,各事項を支える論理【Logic】を学習します。すなわち,各制度の趣旨,要件設定の根拠,論点が浮上する問題の所在,結論に至る理由付けなどに着目し,それぞれの論理過程を学びます。

 たとえば,代理の例でいうと,なぜ代理制度が設けられているのか(制度趣旨─私的自治の拡張と補完),有権代理の各要件が設定される根拠はどこにあるのか(要件設定の根拠─ア 法律行為:代理制度の目的,イ 顕名:効果帰属主体の識別,ウ 先立つ代理権授与:本人への効果帰属の正当化),代理人が本人として行動した場合の処理が問題とされるのはなぜか(問題の所在─顕名要件の形式的不充足),このとき本人への効果帰属が肯定される根拠はなぜか(結論に至る理由─顕名要件設定の根拠),といったことに着目し,それぞれの論理を学んでゆきます(オブジェクトとは区別できる形でボールペン等で線を引きます)。

 ある商法学者は「法律学は説得の学問」と言っていますし,司法試験の論文式試験では説得力のある文章を書くことが求められます。翻って,論理は文章に説得力を持たせるための技術であり,論理過程を学ぶことは説得的な文章を書くための技術を磨くことに他ならないことを考えると,論理過程の学習は法律の勉強の中でも中核的地位を占めるといえます*5。

 *5 ところで,ある著名な学者は「法律学は暗記するのではなく,理解しなければならない」と述べており,よく紹介されるところです。もっとも,学習対象となる事項を全く記憶することなく,単にその論理過程のみを追った学習に終始するならば,知識の正確性を確保することができず,出題趣旨や採点実感がいうところの「正確な理解」を身に付けることは困難です。もとより上記の言葉も,法律の勉強に際して記憶の作業を全く不要とする趣旨とは解されず,理解を伴わない記憶を『暗記』と呼び,かような『暗記』に偏重する学習態度を戒めているに過ぎないと考えます。
 ついでながら私は,『暗記』すなわち理解を伴わない記憶であっても,必ずしも有害無益とはいえないと考えています。なぜなら,正確な記憶は理解を深める契機ともなりうるからです(その逆も然り)。オブジェクトとロジックの学習は車の両輪であって,「暗記か理解か」という問の立て方自体がナンセンスであり,要は学習順序の問題に過ぎず,各人がやり易いように取り組めば良いと思います。


(4)ストラクチャー

 そして,ある程度学習が進んできたら,これまで学んできた個々の事項が,どのように体系的に組み立てられて構造化されているのかを改めて確認し,全体の構造【Structure】を把握します。

 たとえば,代理分野の学習を切りの良いところまで済ませたら,代理制度は法律行為に関する一般的な定めとして,総則編の法律行為の章に一節が設けられてそこにまとめて一般的な定めが置かれていること,代理に関する個別的な定めは他の箇所で定められている場合もあり,たとえば法定代理の1つである親権については親族編の親権の章に定めが置かれていること,などを確認します。ついでに,民法は全部で5編から成っていること,第一編である総則は第7章まであること,をざっくり確認できるとなお良いです。

 上記の作業は,かなりの部分は既にみた(1)アウトラインで行った内容と重複します。もっとも,ざっくりとはいえ一通り学習を済ませた事柄であるので,その事柄が全体の中でなぜそこに位置付けられているのか,ということの理解がより容易になります。
 ここで,どうやら第一編である総則には色んな場面で妥当する共通ルールが定められているらしい,そして,代理は法律行為に関する共通ルールの1つとして総則編に多くの定めが置かれているらしい,といったことが字面の情報としてだけでなく感覚的に分かるようになってきていれば,それは体系的理解というものが確実に向上していることの証左といえます*6。

 *6 ところで一昔前は,いわゆる『論点主義』の学習が槍玉に上げられ痛烈に批判されたことがありました(今はどうか知りません)。私は,試験勉強である以上は試験に出そうな重要論点を重点的に勉強するのはむしろ当然であり,また,個々の論点の学習が全体の理解にも資することを考えれば(ミクロとマクロの視座も車の両輪といえます),個別論点を重点的に勉強するのは決して無益なことではないと考えています。
 ついでながら,先の『暗記』に関する議論もそうですが,一体どんな定義をもって『暗記』『論点主義』とするのか,果たしてよく分からないところがあります。受験生としては,司法試験に通ることが絶対的なノルマとして課される訳ですので,上記のような不毛(というか有害)な議論に踊らされることなく,合目的的に勉強を進めれば良いと思います(基本書も飽くまでそのツールに過ぎません)。


(5)小括

 以上,私の基本書の読み方,すなわち4つの視座について記してきました。当初はこれに続いて,(主に基本書で)学習を進めるに際しての留意点をいくつか挙げるつもりでしたが,予想以上に長くなってしまったので(特に後半になるほど筆が滑った感があります),それはまた次にします。
 ただ,4つの視座について1つだけ付言すると,これらは飽くまで視座を提示するものであって,厳格な作業分担や検討順序を示すものではありません(たとえば,まずはアウトライン把握を5分やって,次にオブジェクトの抽出に10分使って…,といった作業行程を説くものではありません)。これまで見てきたところから明らかなとおり,4つの視座は相互に関連する性格を含んでいます。上記の視座は,いうなれば学習に際して気を付けるべき4つのポイント,と理解していただければ幸いです。

送致罪名と起訴罪名

1.両者の乖離

 送致罪名と起訴罪名とは,必ずしも一致するとは限らない。

 まず,起訴状には被告人の氏名その他これを特定するに足りる事項のほか(刑訴256条2項1号),公訴事実及び罪名を記載することを要し(同項2号・3号),「公訴事実は,訴因を明示してこれを記載しなければならない」(同条3項前段)。

 そして,訴因の設定に際しては,「【送致事実・送致罪名は検討の一助にとどめ】,成立し得る他の犯罪も検討した上,事案の実体に即した訴因を構成することが重要である。その際には,被害の実体,実質的な被害者は誰か,犯人の目的・実質的利得等に着目するとともに,成立しうる犯罪の軽重,立証の難易等を考慮する」(司法研修所検察教官室『検察終局処分起案の考え方(平成28年版)』(以下『考え方』)19頁。【】部分はブログ作者)。


2.原因

 送致罪名と起訴罪名とが異なったものとなる契機としては,(捜査機関側の判断ミスを除くと)主に次の2つが考えられる。

(1)時の経過による事実の変化

│ケース1:結果発生│

 傷害の罪名で送致され,引き続き勾留されたが,勾留期間中に,被疑者の傷害を原因として被害者が死亡した場合。

(2)捜査の進行による事実の判明

│ケース2:新事実の判明│

 業務上横領の罪名で送致され,引き続き勾留されたが,その後の捜査により,横領行為の数日前に被疑者には配置転換があり,横領した物の管理・保管権限を喪失していたことが判明した場合。

│ケース3:共犯者の出現│

 窃盗の罪名で送致され,引き続き勾留されたが,その後の捜査により,窃取されたとされる被害品について管理・保管権限を有する者が背後におり,この者と共犯関係にあることが判明した場合。


3.小括

 「送致罪名は検討の一助にとどめ」る,という当たり前のことを一般論として認識するのみならず,その理由を探求することで,今後の判断ミスを防止することに役立てたい。


4.追記

 「終局処分の処理罪名が送致罪名と異なる場合,検察終局処分起案においては,まずは,終局処分の処理罪名となっている犯罪の成立要件が満たされているかどうかという観点から検討を加えて論述する。併せて送致罪名となっている犯罪を処理罪名としなかった理由も明らかにする必要があるが,この点については,『その他犯罪の正否』の項において論じるのが一般的といえよう」(考え方26頁)。

【書評】新問題研究 要件事実

1.はじめに

 週末は実家に戻る予定でしたが,諸般の事情で帰れなくなってしまったので,秋の夜長に書評を書いてみることにしました。
 今回レビューをするのは,当ブログで先にも触れた,【司法研修所編「新問題研究 要件事実」(法曹会,2011年9月。以下『新問研』)】です。
 「私のような者が書評を書いても良いのだろうか?」と思いもしましたが,新問研については相応に読み込んだ自負もあるので,今回レビューを書くことにしました。
 このブログを閲覧された方々にとって,参考になるところがあれば幸いです(なお,以下の記載が私の独断と偏見に基づくものであることは言うに及びません)。
 また,本記事について何か気付いた点がありましたら,コメント頂ければ嬉しいです。

2.新問研とは

 新問研とは,司法研修所民事裁判教官室*が,「法科大学院の学生をはじめとして,これから要件事実についての考え方を学んでいこうとする人のために,典型的な訴訟物及び攻撃防御方法に関する基本的な事例について,当事者双方の言い分を記載した具体的事例に即して,要件事実についての基本的な考え方を平易に解説する」(同書はしがき)というコンセプトの下で作成された教材です。

 要件事実の入門教材として,法科大学院の授業でテキストとして指定されることが多く,司法試験に合格し司法修習生となる者に対して,司法研修所から送られる一式の教材(いわゆる『白表紙』)にも含まれています。
 市販もされていて,法律を勉強する人ならば,多くの人が1度は手にしたことがある本だと思います。

 * 司法修習では,① 民事裁判,② 民事弁護,③ 刑事裁判,④ 刑事弁護,⑤ 検察,という5科目について研修があります。そのうちの1科目である民事裁判を担当する先生たち,といえば分かりやすいでしょうか。ちなみに,民裁教官は,ある程度経験を積んだ判事が担当します。

3.教材としての性格

(1)入門書

 まず,本書は要件事実の入門書として,いわばインプット用の教材として用いられます。要件事実を学ぶに当たって必要最低限の知識・理解を修得するため.本書を用いる人は多いです。

(2)演習書

 また.本書は演習書.すなわちアウトプット用の教材としての性格も有しています。本書を作成した民裁教官室は.むしろこのような使われ方を想定しているといえます(冒頭3頁の「この教材の使い方」参照)。

4.レビュー

(1)総説

 まず,民裁教官室が作成した白表紙教材ということもあり,記述の信頼性は抜群であり,この点は他の追随を許さないといえます。
 また.本書の旧版である,いわゆる『旧問研』と比較して,「実体法について様々な解釈があることを意識したもの」(同書はしがき)となっており,記述の客観性にも優れています(判例を除き出典の明示はありませんが,入門テキストとしての性格上その弊害は殆どないといえます)。
 そして,ですます調による,条文や判例を基点とした平易な解説は,読んでいて非常に分かりやすく,論旨明快さ,理解のしやすさという点でも非常に優れています。

 つまるところ,要件事実の入門教材として,本書以上のものはないといえます。

(2)指摘される点

 しかしながら,本書については,次の点が指摘されることもあります。

 まず,情報量が少ないという点です。
 たしかに,本書では,要件事実の中でも比較的メジャーな分野である,代理,保証,債権譲渡,代物弁済,相殺,法定解除,不当利得,不法行為,相続などの分野については取り扱われておらず,他の教材等で補完する必要があります(いわゆる30講や類型的など)。
 しかしながら,「要件事実についての基本的な考え方を平易に解説する」という本書のコンセプトに照らせば,この点は必ずしも短所ではなく,過多な情報量は基本分野を見えにくくするおそれもあるということを考えれば,むしろ取扱分野が限定されているのは長所とすらいえます。
 したがって,情報量の少なさという点は,必ずしも本書の短所であるとはいえないと思います。

 次に,理由付けが十分でない,いわゆる行間を読む必要に迫られる,という点が指摘されることもあります。
 たしかに,判例・通説が採用する見解や実務上の運用について,なぜそのような見解が一般的に採用されているのか,なぜ実務上の運用がそのようなものになっているのか,ということについて理由付けが欠落している部分もあります(たとえば,冒頭規定説や主要事実説の採用,不動産登記訴訟における実務上の運用など)。この点についても,必要に応じて他の教材で適宜補完する必要があります。

(3)使い方

 さて,本書の使い方ですが,本書に2つの性格があることは先述しました。本書を作成した民裁教官室としては,演習書として用いられることを期待しているようです。
 もっとも,要件事実について全く学んだことがない人が,いきなり問題演習に取り組んで学習効果があるのかといえば,少し考えてしまいます。

 そこで私としては,本書を2度通読するのが良いのではないかと思います。
 なお,通読と聞くと何やら大変そうに聞こえますが,本書は本文で140ページちょっとしかなく,しかも字が大きく,図や記載例も多く掲載されているので,読むこと自体に時間はそれほどかからないと思います。

 まず,1度目は本書を入門書として,要件事実の基本的な知識・理解を修得するためのインプット用の教材として通読します。ここでは知識・理解の修得に主眼を置きます。
 次に,2度目は本書を演習書として,1度目の通読で修得した知識・理解の確認のためのアウトプット用の教材として通読します。すなわち,「この教材の使い方」に忠実に従って,全ての問題に取り組みます。

 このように本書を用いることで,本書の効用をマックスにすることが出来ると考えています。

5.おわりに

 新問研は多くの受験生・修習生が用いる教材ですが,その用い方は必ずしも一様ではないように思います。
 私のレビューが,本ブログを閲覧された方に対して,少しでもインスピレーションを与えることになれば幸甚です。





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【おまけ】

 書評って初めて書いたけど,思ってたよりすごく難しい。
 考えたままに勢いで書いちゃったけど,こんなんで大丈夫なのかな、、、。

ケース検討

以下のケースは,私の記憶を喚起・保全するために,私が実際に取り組んで間違えた問題を極度に単純化して記したものです。問題演習とその解説,という性質のものではありませんのでご注意下さい(とはいえ,問題に取り組まれるならば勉強になる面もあるかもしれません)。

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∥ケース1:合体抗弁∥

 ① 1月1日,XはYに対して,弁済期を6月末日と定め,100万円を貸し付けた(本件貸付け)。6月末日,YはXに対して,本件貸付けの貸金返還債務の履行として50万円を支払った。
 ② 7月1日,YはXに対して,甲パソコンを70万円で売った(本件売買)。同日,Yは,本件売買に基づき,甲パソコンをXに引き渡した。また,本件売買に際し,代金の支払時期は7月末日と定められた。なお,代金は未だに一切支払われていない。
 ③ 8月1日,XはYに対して,本件貸付けの残金50万円の支払いを求め,訴えを提起した。

【問】以上のケースにおいて,請求の全部棄却判決を得るために,抗弁においてYが主張立証すべき主要事実は何か。必要に応じて簡単な理由を付して述べよ。

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∥ケース2:連帯特約∥

 ① 1月1日,XはY及びAに対して,Y・A双方を借主として,弁済期を6月末日と定め100万円を貸し付けた(本件貸付け)。本件貸付けの際,XはY及びAとの間で,本件貸付けにかかる貸金返還債務を連帯債務とする旨の合意をした。
 ② 7月1日,XはYに対して,本件貸付けの貸金100万円の支払いを求め訴えを提起した。

【問】以上のケースにおいて,請求の全部認容判決を得るために,請求原因においてXが主張立証すべき主要事実は何か。必要に応じて簡単な理由を付して述べよ。

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∥ケース3:賃貸人たる地位の移転(当然型)∥

 ① 1月1日,AはYに対して,甲土地を以下の約定で賃貸した(本件賃貸借)。
 賃料    月額3万円(当月末日払い)
 賃貸期間  契約締結日より40年
 土地の用途 自宅の敷地
 ② 7月1日,Yは自己資金で甲土地上に乙建物を建てた。7月31日,Yは乙建物につきYを所有名義とする所有権保存登記手続をした。
 ③ 8月31日,AはXに対して,甲土地を代金2000万円で売った(本件売買)。同日,Aは,本件売買を原因とする所有権移転登記手続をした(所有名義はXとなった)。なお,本件賃貸借について,A・X間において特段の取り決めはなされなかった。
 ④ 12月1日,XはYに対して,3ヶ月分の未払賃料9万円の支払いを求め,訴えを提起した。

【問】以上のケースにおいて,請求認容判決を得るために,請求原因においてXが主張立証すべき主要事実は何か。必要に応じて簡単な理由を付して述べよ。

民法508条のルール

1.条文

まずは条文を確認する。

民法508条(時効により消滅した債権を自働債権とする相殺)
「時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には,その債権者は,相殺をすることができる。」


2.機能局面

次に,同条が機能する局面を考える。
そこで,たとえば以下のようなケースを想定する。

まず,XがYに対して金銭の支払いを求め訴えを提起した。
これに対して,Yは相殺の抗弁を提出した。
この相殺の抗弁を受けてXは,Yが相殺に供した自働債権は時効期間が経過しているとして,消滅時効の再抗弁を提出した。

このとき,Xの消滅時効の再抗弁は容れられるか否かという形で,民法508条が機能する。


3.民法508条のルール(含 判例法理)

以上を前提として,民法508条の規律内容について検討する。

まず,同条が定める「消滅」とは,時効期間の経過を意味する。

したがって,① 相殺時において,たとえ自働債権につき時効期間が経過していたとしても,② 時効期間経過前に相殺適状が生じていた(受働債権の弁済期が到来していた)場合には,民法508条により相殺をすることができる。

換言すれば,相殺の抗弁に対する消滅時効の再抗弁が容れられるには,自働債権の時効期間経過後に受働債権の弁済期が到来したこと(受働債権の弁済期到来前に時効期間が経過したこと)が必要となる(以上につき,最判平25・2・28民集15‐2‐343)。

なお,自働債権及び受働債権の弁済期到来については,請求原因及び抗弁の段階で明らかになることが多く,再抗弁段階で新たに主張立証を要する場面は稀であると思われる。


4.機能局面の検討

最後に,3でみたルールに則して,2のケースを簡単に検討する。

たとえば,Xの請求債権(受働債権)の弁済期到来が平成24年,Yの自働債権の弁済期到来が平成15年かつ時効期間経過が平成25年であった場合,時効期間経過前(平成24年)に相殺適状が生じていたといえる。したがって,民法508条によりYの相殺の抗弁は容れられ,Xの消滅時効の再抗弁は主張自体失当となる。

これに対して,上記の場合でXの請求債権の弁済期到来が平成26年であったときは,時効期間経過前に相殺適状が生じたとはいえない。したがって,民法508条の適用はなく,Yの相殺の抗弁に対して,Xは消滅時効の再抗弁を提出できる。

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以上につき,岡口基一要件事実マニュアル1【第5版】」(ぎょうせい:平成28年)703・704頁を参照。なお,同書籍を本ブログでは以下「岡口・要件事実1」という(2~5も同じ)。

自己点検 新問研 ⑦(終)

以下では,各設問の取り組みについて,簡単に振り返りたい。
なお,採点は完全に主観である。

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第1問 90点

・『よって書き』を書き忘れそうになったこと以外,特段ミスはなし。

第2問 70点

・主張整理における事実記載の在り方(判決起案段階であるということ)について,要検討。

第3問 70点

・抗弁に対する認否を忘れない。

第4問 60点

・認否の対象と自白が成立する範囲について,具に検討する(項目単位でアバウトに検討しない)。

第5問 70点

・事実摘示においては,極力法的評価を交えた表現は控える(「弁済した」などと記載しない)。

第6問 90点

・特段ミスはなし。

第7問 40点

・権利自白の成立時期に要注意。これを誤ると以降の事実摘示も誤ったものとなる。

第8問 70点

・否認の範囲に気を付ける。

第9問 90点

・特段ミスはなし。

第10問 40点

・登記に関する訴訟は,請求の趣旨の記載に気を付ける(登記請求及び記載事項の別に留意する)。
・自白が成立する範囲に注意する(占有については成立する)。

第11問 70点

・同じく権利自白の成立時点に注意する。複数の考え方があるとはいえ,まずは司法研修所の考え方をマスターする。

第12問 60点

民法上の賃貸借について,黙示の更新に関する主張・立証責任の分配につき要復習(済)。

第13問 90点

・特段ミスはなし。

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おわりに

いざ自力で取り組んでみると,色々な箇所で理解不足が露呈し,大変勉強になった。
新問研は,要件事実の入門テキストであるとともに,極めて優れた演習書でもあった。

自己点検 新問研 ⑥

第12問 土地明渡請求(民法上の期間満了による賃貸借終了,建物所有目的の抗弁)

□訴訟物について

賃貸借契約の終了に基づく【目的物返還請求権としての】土地明渡請求権

□請求原因について

本問における請求原因として,
「(4)平成22年12月26日,原告は,被告に対し,甲土地の明渡しを求めた。」
などと記載するのは誤りである。

この点,民法上の法定更新の効果を否定するため(民619条1項),遅滞なき異議が請求原因になるとも考えうる。

しかしながら,建物賃貸借における更新拒絶の場合と異なり(借借26条1項前段),法定更新の規定は,所定の前提事実の存在から更新の合意を推定する,いわゆる法律上の事実推定と解される。そして,この攻撃防御の位置付けは,期間満了の主張に対する抗弁(黙示の更新の抗弁)になるとされている(司法研修所編「紛争類型別の要件事実【改訂】」〔法曹会,2006年〕98頁。なお,同書を以下「類型別」という)。

したがって,遅滞なき異議は請求原因とはならない。

なお,賃貸借の適用法令,借地契約の期間満了時における処理については,以下の図を参照せよ。

f:id:arika70:20171015035332j:plain

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第13問 動産引渡請求(即時取得,悪意の抗弁,過失の抗弁)

※ 問題は特になし。

釈明

「自分の失敗について,何故わざわざブログを書いているのか?」
この疑問に対する私の考えを,ここで示しておきたいと思います*。


* なお本記事は,書き手である私が,読み手であるブログを閲覧される方に対して書いたものです。今後,読み手に向けた記事を書く場合,自分自身に対するものと区別する意味で,「ですます調」を用いることとします(こんな注意書を要するところに,当ブログの特異性が顕れているといえます)。


結論からいうと,それは「適度な緊張感があり,継続性が期待できるから」です。


まず,今後同じ失敗をしないために,自分の失敗を形に残しておくということは,1つの有用な試みといえます。

もっとも,失敗を形に残すだけならば,ブログでなくとも,ノートなりパソコンなりに残すことで足ります。
しかしながら、外部から何の緊張や圧力もなく、自分の意志だけで物事を継続できる人は稀です。私自身、残念ながらそこまで意志は強くありません。したがって、ノートやパソコンなどに失敗の記録をつけても、長続きしない公算が高いです。

そこで考えたのがブログです。
ブログは外部の目があります。しばらく更新が無かったならば「こいつサボってるな」と思われますし、ブログの更新があれば(つまり失敗を晒したら)「こいつアホやな」と思われます。どっちみち圧力がかかる訳ですが、このような外部の目が,自分に対して適度な緊張感を与え,「しっかり復習して,次こそは失敗しないぞ」という今後の勉強のインセンティブに繋がると考えました。

最初は「そんなに上手くいくもんかいな」と思っていましたが,いざ書き始めてみると,予想以上に効果がありました(これは嬉しい誤算となりました)。


以上のような思惑・経緯から,このブログを始めました。
そして,このような思惑・経緯が,上記の疑問に対する答えになります。

このようなブログの性格上,残念ながら,閲覧される方の勉強になりそうな記事を書くことは難しそうです(もっとも,私がチカラをつけた暁には,そのような記事を書きたいという想いもあります。が,それは当分先のことになりそうです)。


このようなブログですが,どうか,宜しくお願い致します。

Aki

自己点検 新問研 ⑤

第11問 抵当権設定登記抹消登記手続請求(登記保持権原の抗弁)

□請求原因について

本問の権利自白成立時点について、Yの言い分は「Xが甲建物を平成15年以来所有していることは認めます」となっていることから、Xの現時点での所有につき権利自白が成立したとみる余地もある。
しかしながら、Yは登記保持権原の抗弁を提出しており、その内容として、抵当権設定時におけるXの甲建物所有を主張することになる。そうすると、権利自白の成立時点としては、平成22年7月1日と捉える方がYの意図するところに合致すると考えられる。

したがって、本問の権利自白の成立時点としては、平成22年7月1日と考えるべきである。

【ボヤキ】

また権利自白、、、。
たしかここって、15題の旧問研から改説したんだっけ?