Aki's Diary

日々の生活で思ったことなど

私の基本書の読み方

1.はじめに

 お久し振りです。状況が落ち着いてきたので,久しぶりに記事を書いています。
 さて,法律の勉強では,インプット用の教材として,いわゆる基本書を用いることも多いです*1。もっとも,基本書は必ずしも学習者に配慮されて編まれている訳ではなく,特に初学者の方にとっては教材として使いづらい面もあります。
 そこで,私自身の思考整理も兼ねて(実はこれが主目的だったりします),私の基本書の読み方を紹介してみたいと思います。司法試験等に向けて法律を学習される方々にとって,参考になるところがあれば幸いです。また,何かご質問等ありましたら,コメントいただければ嬉しいです。

 *1 なお,インプットのツールとして,いわゆる予備校の講座が利用されることも多いです。私は,予備校は殆ど利用することなく司法試験(次いで二回試験)をパスしましたが,これとは逆に.私と仲の良い友人は,基本書を殆ど利用することなく司法試験(ついでに二回試験)に通りました。そうすると,少なくとも司法試験合格との関係では,『どのツールを用いるか』という観点よりも,むしろ『ツールをどのように用いるか』という観点こそが重要だとも言えそうです。もとより今回の記事も,このような認識の下に記すものであって,ひと昔前によく言われたような,盲目的にいわゆる基本書中心主義や予備校批判に走ることを推奨するものではありません(もっとも,そのような風潮は,予備試験の台頭によって淘汰された感があります)。


2.私の基本書の読み方

(0)総論─4つの視座

 私が基本書を読むときは,(1)ざっくりと全体像を掴む【Outline】,(2)学習対象となる個々の用語を抽出し,その意味を確認する【Object】,(3)制度趣旨や結論に至る論理に着目する【Logic】,(4)個々の制度がどのように体系的に組み立てられているのかを改めて確認し,全体の構造を把握する【Structure】,という4つの視座を設定しています*2。

 *2 以上4つの視座のうち,(1)アウトライン及び(4)ストラクチャーがいわゆるマクロの視座,(2)オブジェクト及び(3)ロジックがミクロの視座といえます。


(1)アウトライン

 勉強する法律の全体像【Outline】がどうなっているのか*3,そして,勉強しようとする内容が全体の中でどのように位置付けられているのか,ということをざっくりと確認します(加えて,これから勉強しようとする内容の全体像をざっくり確認できるとなお良いですが,内容理解にも関わるため困難な場合も多いです)。

 たとえば,これから民法の代理制度について勉強するとします。するとまずは,民法は全部で1044条まであり,総則,物権,債権,親族,相続,という5つの編から成っていること,その中で代理制度は総則の一分野と位置付けられていること,をざっくりと確認します(加えて,代理制度のアウトライン,すなわち代理は大別して有権代理と無権代理とがあり,前者は狭義の有権代理と代理権の濫用,後者は狭義の無権代理表見代理から成っている,といことも確認できるとなお良いですが,内容理解にも関わるため学習の初期段階では困難な場合も多いです)。

 このとき役に立つのが,基本書や各法律の目次です。私は,折に触れて目次を参照していました。
 また,特に学習の初期段階では,アウトラインの確認は形式的なもので足り,各編や各章の実質的内容については,後にみる(2)及び(3)の取り組みに委ねます。アウトラインの確認は『ざっくりと』行うことが肝要です。

 *3 なお,理論的体系(基本書の目次)と法律の構造(法律の目次)とは必ずしも一致しません。民法は概ね一致しますが,刑法や訴訟法など一致しないものもあります。基本書の多くは理論的体系に沿って書かれているため,アウトラインの確認に際しては,原則的には理論的体系を基礎に据えれば良いと思いますが,法律の構造も併せて確認しておくと,個々の条文の理論的位置付けの理解や条文の検索能力を高めることにも繋がり,有益です。


(2)オブジェクト

 基本書を読み進めてゆくに際して,出てくる事項を学習対象【Object】として抽出し,その意味内容を確認します。

 たとえば,基本書で代理の箇所を読み進めていると,代理,任意代理,法定代理,能働代理,受働代理,顕名,といった耳慣れない用語が出てくるので,これらを学習対象として抽出します(ラインマーカー等で線を引きます)。次いで,それぞれの用語の意味内容を確認します(基本書を読みます。各用語の意義,定義,要件,効果などを確認します)。

 このとき,ある事項を学習対象として抽出するか否かで頭を悩ませる必要はありませんが(学習の初期段階では重要性を判断できないため),項目・タイトルとなっているものや繰り返し出てくるもので意味が分からない事項があれば,学習対象として抽出すべきだと思います*4。
 また,学習対象として抽出した事項の意味内容を確認することは大切ですが,その意味するところを完全に理解するには他の分野の知識が必要となる場合も多く,特に学習の初期段階では完璧な理解を目指すことは現実的ではありません。純粋なインプットの段階では,ある程度の形式的な理解でも良しとすべきあり,より深い理解はアウトプットの復習の機会に委ねるべきと考えます。
 加えて,各事項の意味内容を無理に『記憶』するのも得策ではありません。たしかに,記憶の作業は必要であり,特に司法試験の論文式試験に対応するには,最低限『正確に記憶/暗記』しなければならない定義,要件,効果は数多くあります。しかしながら,特に学習の初期段階では記憶すべき内容を正しくセレクトするのは困難であり,また,学習対象として抽出した事項を全て正確に記憶することも現実的ではありません。記憶定着化の作業も,やはりアウトプットの復習の機会に委ねるのが相当だと思います。
 この『インプット → 忘れる → アウトプット → 知識/理解不足が露呈 → 記憶/理解を深めるため再度インプット → ‥‥』というサイクルを繰り返すことで,知識の質(ひいては司法試験への対応力)が飛躍的に高まります。

 *4 たとえば私であれば,代理を勉強するに際しては,最低限以下の事項はセレクトします。ご参考までに。代理,能働代理,受働代理,任意代理,法定代理,顕名,復代理,代理権の濫用,無権代理,自己契約・双方代理・利益相反行為の原則的禁止,無権代理人の責任,無権代理と相続,表見代理,代理権授与の─,権限外行為の─,代理権消滅後の─,─の重畳適用,表見法理,使者,などなど。


(3)ロジック

 学習対象となる事項の抽出・確認を終えたら,又はそれと並行して,各事項を支える論理【Logic】を学習します。すなわち,各制度の趣旨,要件設定の根拠,論点が浮上する問題の所在,結論に至る理由付けなどに着目し,それぞれの論理過程を学びます。

 たとえば,代理の例でいうと,なぜ代理制度が設けられているのか(制度趣旨─私的自治の拡張と補完),有権代理の各要件が設定される根拠はどこにあるのか(要件設定の根拠─ア 法律行為:代理制度の目的,イ 顕名:効果帰属主体の識別,ウ 先立つ代理権授与:本人への効果帰属の正当化),代理人が本人として行動した場合の処理が問題とされるのはなぜか(問題の所在─顕名要件の形式的不充足),このとき本人への効果帰属が肯定される根拠はなぜか(結論に至る理由─顕名要件設定の根拠),といったことに着目し,それぞれの論理を学んでゆきます(オブジェクトとは区別できる形でボールペン等で線を引きます)。

 ある商法学者は「法律学は説得の学問」と言っていますし,司法試験の論文式試験では説得力のある文章を書くことが求められます。翻って,論理は文章に説得力を持たせるための技術であり,論理過程を学ぶことは説得的な文章を書くための技術を磨くことに他ならないことを考えると,論理過程の学習は法律の勉強の中でも中核的地位を占めるといえます*5。

 *5 ところで,ある著名な学者は「法律学は暗記するのではなく,理解しなければならない」と述べており,よく紹介されるところです。もっとも,学習対象となる事項を全く記憶することなく,単にその論理過程のみを追った学習に終始するならば,知識の正確性を確保することができず,出題趣旨や採点実感がいうところの「正確な理解」を身に付けることは困難です。もとより上記の言葉も,法律の勉強に際して記憶の作業を全く不要とする趣旨とは解されず,理解を伴わない記憶を『暗記』と呼び,かような『暗記』に偏重する学習態度を戒めているに過ぎないと考えます。
 ついでながら私は,『暗記』すなわち理解を伴わない記憶であっても,必ずしも有害無益とはいえないと考えています。なぜなら,正確な記憶は理解を深める契機ともなりうるからです(その逆も然り)。オブジェクトとロジックの学習は車の両輪であって,「暗記か理解か」という問の立て方自体がナンセンスであり,要は学習順序の問題に過ぎず,各人がやり易いように取り組めば良いと思います。


(4)ストラクチャー

 そして,ある程度学習が進んできたら,これまで学んできた個々の事項が,どのように体系的に組み立てられて構造化されているのかを改めて確認し,全体の構造【Structure】を把握します。

 たとえば,代理分野の学習を切りの良いところまで済ませたら,代理制度は法律行為に関する一般的な定めとして,総則編の法律行為の章に一節が設けられてそこにまとめて一般的な定めが置かれていること,代理に関する個別的な定めは他の箇所で定められている場合もあり,たとえば法定代理の1つである親権については親族編の親権の章に定めが置かれていること,などを確認します。ついでに,民法は全部で5編から成っていること,第一編である総則は第7章まであること,をざっくり確認できるとなお良いです。

 上記の作業は,かなりの部分は既にみた(1)アウトラインで行った内容と重複します。もっとも,ざっくりとはいえ一通り学習を済ませた事柄であるので,その事柄が全体の中でなぜそこに位置付けられているのか,ということの理解がより容易になります。
 ここで,どうやら第一編である総則には色んな場面で妥当する共通ルールが定められているらしい,そして,代理は法律行為に関する共通ルールの1つとして総則編に多くの定めが置かれているらしい,といったことが字面の情報としてだけでなく感覚的に分かるようになってきていれば,それは体系的理解というものが確実に向上していることの証左といえます*6。

 *6 ところで一昔前は,いわゆる『論点主義』の学習が槍玉に上げられ痛烈に批判されたことがありました(今はどうか知りません)。私は,試験勉強である以上は試験に出そうな重要論点を重点的に勉強するのはむしろ当然であり,また,個々の論点の学習が全体の理解にも資することを考えれば(ミクロとマクロの視座も車の両輪といえます),個別論点を重点的に勉強するのは決して無益なことではないと考えています。
 ついでながら,先の『暗記』に関する議論もそうですが,一体どんな定義をもって『暗記』『論点主義』とするのか,果たしてよく分からないところがあります。受験生としては,司法試験に通ることが絶対的なノルマとして課される訳ですので,上記のような不毛(というか有害)な議論に踊らされることなく,合目的的に勉強を進めれば良いと思います(基本書も飽くまでそのツールに過ぎません)。


(5)小括

 以上,私の基本書の読み方,すなわち4つの視座について記してきました。当初はこれに続いて,(主に基本書で)学習を進めるに際しての留意点をいくつか挙げるつもりでしたが,予想以上に長くなってしまったので(特に後半になるほど筆が滑った感があります),それはまた次にします。
 ただ,4つの視座について1つだけ付言すると,これらは飽くまで視座を提示するものであって,厳格な作業分担や検討順序を示すものではありません(たとえば,まずはアウトライン把握を5分やって,次にオブジェクトの抽出に10分使って…,といった作業行程を説くものではありません)。これまで見てきたところから明らかなとおり,4つの視座は相互に関連する性格を含んでいます。上記の視座は,いうなれば学習に際して気を付けるべき4つのポイント,と理解していただければ幸いです。